A型事業所から一般就労を目指すには?ステップアップの方法とサポート内容

「就労継続支援A型事業所」での経験を経て、最終的に一般就労を目指したいと考えている方も多いのではないでしょうか。 本記事では、A型事業所から一般就労に移行するためのステップアップの方法や、必要な準備、利用できるサポート内容を詳しく解説します。
公開日:2025/07/18最終更新日:2025/07/29

この記事の監修者

田中 亜由美

サービス管理責任者

短期大学卒業後、市立の特別養護老人ホームに配属されたことをきっかけに、福祉の道へ進みました。 その中で「人と関わることの楽しさ」と「支援のやりがい」を実感し、以後は障害福祉の分野で勤務を続けています。 現在は、就労支援事業所にて、利用者一人ひとりの思いや希望に寄り添った支援を……

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目次
A型事業所とは?
A型事業所から一般就労を目指すのは可能?
A型事業所から一般就労するための準備
一般就労までの具体的なステップアップ方法
A型事業所から直接一般就労を目指す
A型→就労移行支援を利用して一般就労を目指す
A型事業所の就労支援・サポート内容
一般就労後のフォローアップ・定着支援の仕組み
よくある質問・不安と解消方法
まとめ:自分のペースで一般就労が目指せるA型事業所

A型事業所とは?

「就労継続支援A型事業所」とは、障害や病気があり一般企業では働くことが難しい方を対象にした障害福祉サービスのひとつです。利用者は事業所のサポートを受けながら働くことができ、一般就労のために必要な知識や訓練も受けられます。利用者と事業所が雇用契約を結ぶため労働基準法が適用され、都道府県の最低賃金以上の給料が支払われるのが特徴です。安定した就労環境のもと、利用者それぞれの特性に合わせた支援を受けながら、働くことをサポートする制度です。

A型事業所と一般就労には、働く環境や支援体制、求められる能力に明確な違いがあります。一般就労は企業や団体に雇用され、他の労働者と同じフルタイムで働きますが、サポートは基本的になく、自分の力で業務をし職場に適応していかなければなりません。成果や能力が重視されるため、安定した勤務や高いスキル、社会性などが求められます。A型事業所は「サポートを受けながら働く場所」、一般就労は「自立して働く場所」と言えるでしょう。

詳しくは以下の記事で紹介しています。

【初めての方へ】就労継続支援A型事業所とは?制度の仕組みと利用の流れ

A型事業所から一般就労を目指すのは可能?

A型事業所から一般就労を目指すのは可能?

結論から述べると、A型事業所から一般就労を目指すことは可能であり、この障害福祉サービスの大きな目的のひとつです。厚生労働省はA型事業所の制度設計において、「一般就労への移行促進」を重要な政策目標としています。働きながら経験を積み、生活リズムやスキルを身につけ、最終的に一般就労を目指す場所がA型事業所というわけです。

またA型事業所から一般就労へ移行した人数は令和4年は4,818人、令和5年は5,475 人と、ここ数年で増加傾向です。この背景には企業の障害者雇用の拡大があり、企業側の受け入れ体制が整ってきたことが理由として考えられます。他にもA型事業所の支援内容の充実や、就職活動のサポートの強化が進んだことも挙げられるでしょう。

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A型事業所から一般就労するための準備

A型事業所から一般就労するための準備

一般就労を目指すには、A型事業所での経験を通じて、着実にステップアップしていくことが大切です。ここでは、働くリズムの形成から体調管理、就職に向けた相談体制の活用まで、段階的な準備のポイントを紹介します。

  • ステップ① 働くリズムと職業スキルの習得
    一般企業では決まった時間に出社しなくてはいけません。毎日出勤するための生活リズムを整えましょう。また、自分が希望する仕事を自分一人でできるようスキルアップが必要になります。
  • ステップ② 就職に向けた体力・体調管理
    継続的に働くためには体調を整えることが大切になります。勤務時間が決まっており休憩時間は昼食のみとなるため、働き続けられる体力もつけていきましょう。
  • ステップ③ 職業相談やキャリア面談の活用
    事業所の職業面談や、キャリア面談を積極的に活用しましょう。明確な目標を定め、それに向けて成長していけるよう具体的なサポートを受けます。

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一般就労までの具体的なステップアップ方法

一般就労までの具体的なステップアップ方法

A型事業所から一般就労に進む方法には、主に2つのルートがあります。それぞれの特徴や進め方を参考に、自分に合ったステップを選びましょう。

A型事業所から直接一般就労を目指す

A型事業所で働いた実務経験をそのまま活かしたい方におすすめです。身につけたPCスキルや軽作業、接客などの経験を活かし、同じ業種の企業への就職を目指します。A型事業所を選ぶ際に、一般就労への支援内容が充実しているか確認してみましょう。こちらのパターンでは、事業所で働き収入を得ながら就職活動を進めることができます。

  • 就職活動の進め方
    事業所で働きながら、勤務時間外に支援員と相談して就職活動を進めます。まずはハローワークや障害者向け求人サイトなどで、希望する就職先を探しましょう。履歴書や面接準備などのサポートを受けながら内定を目指します。A型事業所には利用期限がないため、自分のペースで準備を進めることができます。
  • 障害者枠・オープン就労・クローズ就労の選択肢
    障害のある方が就職を考える際には、「障害者枠」「オープン就労」「クローズ就労」という3つの選択肢があります。「障害者枠」は、障害者手帳を持つ方が、企業の「障害者雇用枠」で採用される働き方です。
    企業には一定割合の障害者雇用が法律で義務付けられています。「オープン就労」は、自身の障害について企業に開示(オープン)して働く方法です。障害者雇用枠だけでなく、一般枠でも障害を開示して就労するケースも含まれます。
    「クローズ就労」は、障害や病気を企業に開示せず(クローズ)、一般枠で他の社員と同じ条件で働く方法です。自分がどの選択肢をとるのか、障害の特性や体調なども考えながら決めていきましょう。

A型→就労移行支援を利用して一般就労を目指す

A型事業所で経験を積んだあとに「就労移行支援事業所」へ移行し、一般企業を目指す方法です。就労移行支援では、より具体的な履歴書の作成支援や面接練習、職場実習など実際の就職活動に向けたサポートが充実しています。段階的なステップを踏むため、いきなり一般就労は心配という方におすすめです。

  • 就労移行支援の利用メリット
    就労移行支援の最大のメリットは、一般就労に必要なスキルや生活リズム、健康管理能力を身につけ、特性に合った支援を受けながら自信を持って就職活動に臨めることです。就職後も職場定着のサポートがあり、長く安定して働くための土台を作ることができます。A型事業所よりスキルアップと就活に集中できるため、本格的に一般就労を目指すことができます。
  • 利用方法・期間・サポート内容
    就労移行支援の利用方法は、希望する支援事業所を探し、お住まいの自治体の障害福祉窓口で「障害福祉サービス受給者証」の申請手続きをします。その後、事業所と利用契約をかわし利用をスタートします。就労移行支援は期限があり原則2年間です。
    サポート内容としては、就労に必要な知識やスキルの習得、職場見学・実習、就職活動支援、就職後の定着支援があります。就職のための幅広い支援が受けられる施設です。訓練や実習をする施設のため給料はありません。

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A型事業所の就労支援・サポート内容

A型事業所では、日々の仕事だけでなく就職に向けた支援も行われています。履歴書作成や面接練習といった就職準備から定着支援まで、どのようなサポートがあるのかを確認しておきましょう。

  • 求職活動支援
    支援員との定期的な面談を通じてキャリアカウンセリングを受けられます。将来の目標を整理しながら、得意な作業や向いている仕事を見つけていきましょう。働く上での不安や課題も相談できます。
  • 就職準備支援
    就職活動に欠かせない履歴書や面接対策などのサポートが受けられます。履歴書・職務経歴書の書き方指導、面接の受け答え練習、よくある質問の対策があります。そのほか、求人情報の提供や職場見学の調整が受けられます。
  • 定着支援
    一般就労後は6ヶ月間のA型事業所による支援が受けられます。本人との面談や企業への訪問、必要に応じて職場環境の調整支援などのサポートがあります。A型事業所による定着支援が終了したあとは、「就労定着支援」への引き継ぎなども行っています。

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一般就労後のフォローアップ・定着支援の仕組み

一般就労後のフォローアップ・定着支援の仕組み

一般就労がゴールではありません。就職後も安心して働き続けるためには、定着支援が重要です。ここでは、A型事業所や就労移行支援事業所が提供している定着支援の内容について解説します。

  • A型事業所の定着支援
    A型事業所には就職後の職場定着を支援するしくみとして、「就労移行支援体制加算制度」があります。一般就労への移行とその職場定着を促すため、事業所の努力や成果を評価する目的で設けられた制度です。事業所から一般就労し、6ヶ月以上継続して就労できる支援をしたことに加算されます。この制度を取得している事業所は、一般就労へ向けた計画や訓練体制があり、就労後の定着のためのサポート体制が整っているといえます。
  • 就労移行支援事業所の定着支援
    就労移行支援では、職場への定着を目指す取り組みが義務付けられています。そのため、入社後〜6か月間の職場定着支援を行っています。定期面談や職場訪問を通じて、本人・職場・医療機関などを繋ぐ調整や、体調・生活・人間関係・業務内容などの相談対応などが受けられます。7か月目以降は最長3年間の「就労定着支援」へのサービス移行も可能です。

よくある質問・不安と解消方法

「自分でも一般就労できる?」「体調に不安がある…」など、A型事業所からステップアップを目指す方にとって、疑問や不安はつきものです。ここではよくある悩みと、その対処法をQ&A形式でご紹介します。

  • どんな人が一般就労できるの?
    まずは「働く習慣が安定している人」です。生活のリズムが整い、毎日決まった時間に通勤できる体調を整えることが大切です。次に「仕事をこなすスキル」があることです。作業内容を理解し、わからないことがあったら質問する、など社会人としてのマナーを身につけていきましょう。
    仕事を円滑に進めるためには、周りの方とのコミュニケーションも大切です。あいさつや返事など職場で円滑にやり取りできる素直さも、社会で働くためには必要になってきます。
  • 体調面に不安があるけど大丈夫?
    働いていて体調不良を感じたらまずは主治医に相談しましょう。その上で働き方が自分にあっているか見つめ直してみます。また、入社時の面接で障害や病気に対する配慮事項をしっかり伝えておくことも大切です。ポイントは一人で抱え込まないこと。周囲の理解を得ながら体調を整えていきましょう。
  • 就労後に困ったらどうすれば良い?
    A型事業所や就労移行支援の「定着支援」を利用しましょう。定期的な職場への訪問や面談を通じて、体調のこと、業務内容、人間関係などの相談ができ、医療機関や福祉機関と連携を取りながら、解決へ向けサポートしてくれます。
    そのほかに、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、ハローワークなどでも相談できます。小さなことでも困ったことがあったら、早めに相談することが大切です。

まとめ:自分のペースで一般就労が目指せるA型事業所

雇用契約を結ぶA型事業所では一般就労に近い形で働くことができ、「働く習慣」・「生活のリズム」・「社会性」など、就職に必要な力が身につけられます。実務経験があることは企業への大きなアピールになることはもちろん、利用期限がないため、働くことに慣れてから自分のペースで準備ができるのもメリットです。
特に一般就労を積極的に目指している方は、A型事業所を選ぶ際に必ず一般就労支援の内容も確認しましょう。就労移行支援体制加算制度を取得しているか、実際に長く定着している利用者がいるかを聞くのがポイントです。

就労へのステップアップ方法はひとつではありません。自分にはどの方法が向いているのか周囲に相談しながら、一般就労を目指していきましょう。

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