
手帳なしで就労移行支援は利用できる?利用条件・可能性を詳しく解説
この記事の監修者
田中 亜由美
サービス管理責任者
短期大学卒業後、市立の特別養護老人ホームに配属されたことをきっかけに、福祉の道へ進みました。 その中で「人と関わることの楽しさ」と「支援のやりがい」を実感し、以後は障害福祉の分野で勤務を続けています。 現在は、就労支援事業所にて、利用者一人ひとりの思いや希望に寄り添った支援を……
就労移行支援とは?利用前に基本情報を確認
就労移行支援とは、障害のある方が一般企業への就職を目指すために必要な知識や能力を習得できるようサポートする福祉サービスです。まずは基本的な概要を見ておきましょう。
就労移行支援の概要と支援内容
- 職業訓練
パソコンスキル、ビジネスマナー、コミュニケーション能力向上など - 職場実習
実際の企業での実習を通じて、職場の雰囲気や業務内容を体験 - 就職活動支援
履歴書の作成指導、面接対策、求人情報の提供など - 定着支援
就職後も、職場への適応や困りごとに関する相談支援
利用できる対象者の基本条件
就労移行支援を利用するには、以下の条件を満たす必要があります。
- 障害がありかつ65歳未満であること
- 就労を希望していること
- 就労に必要な知識や能力の習得、または職場の開拓、就職後の定着支援を必要としていること
つまり、「働く意欲はあるけれど、まだ一般企業に就職するのは不安」と感じる障害者の方が対象です。障害の種類は、身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病など多岐にわたります。特別支援学校や支援学級などを卒業した方も対象です。
就労移行支援を利用するためには、上記条件を満たし、なおかつ「福祉サービス受給者証」が必要です。取得方法について詳しくは後述しています。
就労継続支援との違いは?
就労移行支援と混同されやすいサービスに「就労継続支援」があります。両者の主な違いは、以下の通りです。
- 就労継続支援
一般企業での就労が困難な方に「働く場」を提供するサービスです。A型とB型があり、A型は事業所と雇用契約を結び給与が支払われるのに対し、B型は雇用契約がなく工賃が支払われます。利用期間の制限はありません。 - 就労移行支援
一般企業への「就職」を目標とし、そのための訓練や支援を提供するサービスです。原則2年の利用期間があります。
2つの違いについて、詳しくは以下の記事で紹介しています。
就労移行支援の意義
「就労移行支援で本当に就職できるようになるの?」といった声を耳にすることがありますが、就労移行支援から一般就労への移行者数は年々増加傾向にあり、令和5年には前年比約9%増の2.7万人が移行を実現しています。就労移行支援事業所に安定的に通所してスキルを磨くことで、障害者の一般就職の可能性は高まると言えます。
※参考:厚生労働省「就労支援施策の対象となる障害者数」
障害者手帳なしでも就労移行支援は利用できる?
結論から言うと、就労移行支援は障害者手帳なしで利用が可能です。ここでは、その理由と就労移行支援の概要について解説します。
就労移行支援事業所の利用対象者
厚生労働省によると、就労移行支援事業所の利用対象者は以下のように定められています。
“一般就労等を希望し、知識・能力の向上、実習、職場探し等を通じ、適性に合った職場への就労等が見込まれる障害者(65歳未満の者)”
すなわち、障害者手帳の所持は義務付けられていません。
就労移行支援の利用条件
就労移行支援を含む障害福祉サービスを利用するためには、「福祉サービス受給者証」が必要です。この受給者証は自治体が発行するもので、就労移行支援を利用するためには障害者手帳をお持ちの方でも取得する必要があります。専門医の診断書や意見書を提出し、自治体が障害の状態を審査することで交付されます。
手帳なしでも、日常生活や就労に支障があると判断されれば取得可能です。詳細は自治体窓口にご相談ください。受給者証を取得すると、障害福祉サービスの利用料の一部または全額控除を受けることができます。(負担額は、世帯の収入等によって異なる)
就労移行支援の利用期間
就労移行支援の利用期間は、原則2年間と定められています。この期間内に集中的な訓練や実習を行い、一般就職を目指します。ただし病気や体調不良による長期間の利用中断、あるいは就職活動の難航など、正当な理由が認められる場合に限り、最大1年間の延長申請が可能です。
この延長は「就労への強い意欲があり、就職の見込みがある」と判断された場合にのみ承認されるため、申請すれば誰もが認められるわけではありません。さらに就職後も、不安がある方は最長6カ月間の定着支援を受けられます。
障害者手帳と福祉サービス受給者証との違い
障害者手帳とは、障害があることや各種福祉サービスや優遇措置の対象であることを証明するために都道府県が発行するいわば「資格」の一種です。一方福祉サービス受給者証は、特定の障害福祉サービスを利用する際に自治体から交付される「利用許可証」と言えます。手帳があっても受給者証がなければサービスは利用できません。
障害者手帳なしで就労移行支援を利用する場合の注意点
就労移行支援は障害者手帳がなくても利用することができますが、以下の点に気を付けておきましょう。
自治体による判断の違い
就労移行支援の利用可否は、あくまで自治体に委ねられています。自治体ごとに障害福祉サービスに関する運用基準が異なるということを、念頭に置いておきましょう。条件や利用方法を確認するためには、必ず事前に自治体の福祉担当窓口に確認する必要があります。
事業所によっても対応が異なる
自治体だけでなく、就労移行支援事業所によっても利用者受け入れの対応が異なる場合があります。事業所によっては手帳の取得を推奨したり、診断書の内容をより厳しく審査したりすることがあります。そのため、複数の事業所に見学に行き、就労移行支援の利用について直接確認することをおすすめします。
将来の一般就労に影響することも
就労移行支援を利用しその後一般就労を目指す場合や、就労継続支援A型事業所の利用を検討する際に影響が出る可能性も考慮に入れなければなりません。企業によっては障害者手帳の有無が条件となる場合があります。オープン就労(障害を申告)で配慮を求めたり、クローズ就労(申告せず)を選択したりする準備を事業所と相談してください。
障害者手帳なしで就労移行支援を利用する際の流れ
障害者手帳なしで就労移行支援を利用する際の流れは、以下の通りです。
就労移行支援事業所を探す
まずは、希望条件に合う就労移行支援事業所を探しましょう。事務作業やパソコン業務など、プログラムは事業所によって様々です。この段階では一つに絞らず複数の候補をピックアップしておきます。検索方法はインターネットのほか、自治体の障害福祉担当窓口や相談支援事業所、ハローワークに相談するなど、いくつかの方法があります。
利用したい事業所がピックアップできたら、正式な申し込みの前に体験利用をおすすめします。スムーズな一般就労を進めるには、自身に適した事業所を選ぶことが重要です。利用開始後に「自分には合わないかも」とギャップを感じてしまわないよう、体験を通じてわからないことや不安点をスタッフに相談しておきましょう。
福祉サービス受給者証の申請手続き
利用したい事業所が決まれば、正式な申請手続きに進みます。自治体窓口や相談支援事業所で相談し、就労移行支援の利用が適切と判断されれば、申請可能です。福祉サービス受給者証の発行を申請します。
申請には医師の診断書や現在の生活状況に関する情報などが必要なため、自治体の担当者から必要書類の案内を受け、指示に従って手続きを進めましょう。事業所によっては、受給者証の発行を代行してくれるケースもあります。
利用申請時に必要な書類は自治体によって異なりますが、一般的には以下の書類が求められます。
- サービス支給申請書
- 世帯状況・収入等申告書
- 計画相談支援給付申請書
- マイナンバーを確認できる書類
- 障害者手帳または福祉サービス受給者証
受給者証の発行と利用開始
自治体による認定調査等の結果、受給者証が発行されれば、サービスを利用開始できます。希望する事業所と契約を結び、通所を開始します。
障害者手帳なしで働くメリット・デメリット
障害者手帳なしで就労支援は利用可能ですが、将来一般就労する際に手帳がなくて困ることはあるのでしょうか?ここでは、障害者手帳なしで働くメリット・デメリットを紹介します。
メリット
- より早く就労を開始できる
手帳取得の手間や時間を省けるため、比較的スムーズに就労や訓練を開始できる場合があります。 - 心理的負担が少ない
手帳を持つことへの抵抗感がある場合、その心理的負担なく仕事に取り組むことができます。 - 選べる求人数が多い
障害者雇用枠ではどうしても業種や求人が限られてしまいますが、手帳なしの一般就労ではより多くの求人から希望の仕事を探せます。
デメリット
- 職場で配慮を受けにくい
障害を申告しない場合、企業側からの特別な配慮やサポートを得にくい場合があります。体調面などで安定した通勤が難しくなってしまっても、相談できる環境でなければ、精神的な負担を感じるかもしれません。障害を申告する働き方をオープン就労、申告しない働き方をクローズ就労と言います。 - 公的支援が制限される
税制優遇、医療費助成、公共料金割引など、手帳所持者が受けられる様々な公的支援や福祉制度が利用できません。
これらの点を踏まえ、自身の状況と目指す働き方に応じて、手帳取得の必要性を検討することが重要です。
障害者手帳の取得を検討するべきタイミング
以下のようなケースでは、障害者手帳の取得を検討するべきでしょう。
- 長期的に医療機関へ通院しており、症状が安定しない場合
- 日常生活や社会生活において、継続的に相当な制限を受けている場合
- 障害者雇用枠での就職を強く希望する場合
- 各種福祉サービスや公的支援(税制優遇、公共料金割引など)の利用を希望する場合
就職活動・生活支援の幅を広げるメリット
障害者手帳を取得することで、就職活動において障害者雇用枠の求人に応募できるようになり、選択肢が大きく広がります。また税金の控除や医療費の助成、公共交通機関の割引など、様々な生活支援を受けることができるようになり、経済的な負担を軽減できます。
取得を迷ったときの相談先
障害者手帳の取得に迷っている場合は、一人で抱え込まずに障害者基幹相談支援センターなどの相談支援事業所や、現在通院している医師に相談することをおすすめします。専門家があなたの状況を客観的に判断し、手帳取得のメリット・デメリットや、今後の支援について具体的なアドバイスをしてくれるでしょう。
目的に合わせて障害者手帳と受給者証を取得しよう
障害者手帳なしでも就労移行支援は利用できますが、代わりに福祉サービス受給者証が必要です。医師の診断書や意見書を取得し、お住いの自治体に受給者証の発行を申請しましょう。
一般就労へ移行する際にどのような働き方を目指すかで、手帳の必要性は変わります。もし障害者雇用枠で働きたいなら、手帳は必須です。ただし手帳がなくても利用できる機関や職場もあるため、就労移行支援の期間中に将来の働き方についてじっくり検討するのも一案です。中には、就労移行支援を利用しながら障害者手帳を取得している利用者も少なくありません。支援機関や自治体窓口に相談しながら、自分に必要な証明書を取得していきましょう。